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遊びと練習のあいだ ── 意図的な遊び(デリバレイト・プレイ)とは何か

2026.08.30石井孝法解説

子どもが「もう一回やっていいですか」と自分から言うとき、それは起きています。指導者が回数を指示していないのに運動量が積み上がっていく。この状態に名前を与えたのが、意図的な遊び(デリバレイト・プレイ)という考え方です。

この記事では、その定義と根拠、そして正直な限界を整理します。あわせて、小学生を対象に実際にやってみて分かったことを書きます。

一言でいうと

意図的な遊びとは、楽しさを最大にするように設計された、子どもの身体活動のことです。カナダの研究者ジャン・コテが1999年に提唱しました。

もとの定義はこうです。「本質的に動機づけられ、即座の満足を提供し、楽しさ最大化を意図した、初期発達的な身体活動」。

この言葉は、対になる概念とセットで理解する必要があります。それが意図的な練習(デリバレイト・プラクティス)です。「一万時間の法則」の中核にある概念で、努力を要し、その場では報酬がなく、楽しさではなく上達を目的とする、高度に構造化された活動を指します。

つまりコテは、この定義を一つずつ裏返して「意図的な遊び」を作りました。楽しくない→楽しい。即時報酬がない→即座の満足がある。上達が目的→楽しさが目的。

四つの活動のどこに位置するか

コテは子どもの活動を四つに分け、遊びと練習を一本の連続体の上に並べました。下へ行くほど、子どもに委ねられる度合いが減り、大人が設計する度合いが増えます。

活動 目的 構造
自由な遊び 楽しさ なし
意図的な遊び 楽しさ ゆるやかにある
構造化された練習 上達 ある
意図的な練習 上達 高い

意図的な遊びは、上から二番目。自由な遊びよりは設計されているが、練習ほどは構造化されていないという位置にあります。コテはこれを6歳から12歳ごろ(サンプリング期)の中心に置き、16歳以降の投資期では意図的な練習が主になるとしています。

三つの条件

ある活動が意図的な遊びであるかどうかは、次の三つで判定します。

条件 意味
楽しさ優先の設計 上達のためではなく、まず面白いことが目的
年齢に合わせたルール 大人のルールをそのまま小さくしたものではない
誰かが場を成り立たせる 放任ではない。子ども自身でも大人でもよい

三つ目は誤解されやすいところです。意図的な遊びは「子どもを自由に遊ばせること」ではありません。ルールがあり、それを誰かが成り立たせていることが条件に入っています。まったくの放任は、この定義では自由な遊びのほうに入ります。

なぜ効くと言われているのか

コテの主張は、運動能力の話ではありません。動機の話です。

幼い時期に楽しい遊びをたくさん経験した子どもは、内側から湧く「やりたい」という気持ちの土台ができる。その土台があるから、後年の苦しく単調な練習に耐えて投資できるようになる——という因果の順序を主張しました。

これは動機づけ研究の知見と重なります。自己決定理論では、人の意欲は自律性(自分で選んでいる感じ)・有能感(できるようになっている感じ)・関係性(仲間とつながっている感じ)の三つが満たされるときに保たれるとされます。そして重要なのは動機の量ではなく質です。

エリート水泳選手を対象にした研究では、コーチから自律性を支えられていると感じていた選手ほど自律的な動機づけが高く、自律的な動機づけは長期の継続を、外から与えられた動機づけは急速な脱落を予測しました。

裏づけとなっている数字

プロのアイスホッケー選手を調べた研究では、組織的な練習が約3,072時間だったのに対し、意図的な遊びは約3,500時間と、遊びのほうが多いという結果が出ています。

ドイツのオリンピック代表選手166名を、競技・性別・年齢でそろえて比較した研究では、国際メダリストのほうが専門化した年齢が遅いという結果でした(14.8歳 対 11.9歳)。総練習量には差がなく、メダリストのほうが他競技の練習が多かった。「早く一つに絞ったほうが有利」という直感とは逆の結果です。

実践してみて分かったこと

小学生を対象に、柔道の動きが含まれる遊びを、日本や他国の伝統的な遊びの中から選んで実施しました。狙いは、意欲と主体性が高い状態を保ったまま運動量を確保することです。

結果として、指導者が「何回やりましょう」と回数を指示しなくても、子どもたちのほうから「もう一回やっていいですか」と言ってきました。

これを三つの条件に照らすと、次のようになります。

条件 この実践では 判定
楽しさ優先の設計 伝統的な遊びをそのまま使った。遊びとして完成しているものを選んでいる 満たす
年齢に合わせたルール 小学生向けの遊びを選定している 満たす
誰かが場を成り立たせる 指導者が種目を選び、場を設定した 満たす
(第四の要素)技術的な狙い 柔道の動きを含むものを意図的に選んだ 定義にない

三つの条件はすべて満たしています。問題は四つ目です。コテの定義には「技術的な狙いを仕込む」という要素はありません。楽しさのためだけに設計されているのが、もとの定義でした。

狙いを持たせた瞬間、その活動は連続体の上を下へ、つまり構造化された練習の側へ動きます。実際、この分野の研究を点検したレビューでは、意図的な遊びを扱った研究の定義のうち、遊びや楽しさの要素を含んでいたのは38パーセントだけでした。残りは狙いのほうに重心が移り、実質的に「少し構造をゆるめた練習」になっていた、ということです。

では、この実践はどちら側にあったのか

ここで効いてくるのが、「もう一回やっていいですか」という自発的な要求です。

この一言は、単に子どもが喜んでいたという話ではありません。その場で観察できる、動機の質の指標です。

指示されずに継続を求めたということは、行動が外からの統制ではなく自分の選択として起きていた、つまり自律性が保たれていたことを意味します。狙いを仕込んでも遊びが壊れなかった、という証拠になります。

研究が落としたものを、現場が持っている

先ほどのレビューは、この分野の実証研究の84パーセントが過去を思い出して答えてもらう質問紙に頼っており、そのために「なぜ効くのか」の仕組みが特定できない、と批判しています。何時間やったかは数えられても、そのとき遊びが遊びとして成立していたかは、後から思い出しては測れないからです。

「もう一回やっていいですか」は、まさにその測れなかった部分を、その場で捉えた観察です。回数や時間の記録より、この一言のほうが概念に忠実な指標だと言えます。記録する価値があります。

よくある誤解

誤解 実際は
自由に遊ばせておけばよい ルールがあり、誰かがそれを成り立たせていることが条件。放任は定義から外れます
練習より遊びのほうが優れている 発達段階ごとの配合比の話。年齢が上がれば練習の比重が上がることはモデルに織り込まれています
遊べば運動能力が幅広く身につく コテ自身はそう主張していません。彼の主張は動機づけの話です
楽しければ意図的な遊びである 楽しさは必要条件であって十分条件ではありません

どこまで確かなのか

使う前に知っておいたほうがよい限界を、正直に書いておきます。

概念は発見ではなく、定義から作られた

意図的な遊びは、データの中から見つかった現象ではありません。既存の概念の定義を裏返して設置されたカテゴリーです。そのため「これは本当に存在する区分なのか」という問いは、今も残っています。

「早期専門化は必要ない」は強く、「なぜ効くか」は弱い

主張を分けて評価する必要があります。「早い時期に一つの競技に絞る必要はない」という否定的な主張は、複数の実証研究に支持されています。一方で「意図的な遊びが何を育てるから有効なのか」という仕組みの説明は、レビューでも「未確定」とされています。

証拠の多くは過去の記憶に頼っている

実証研究の84パーセントが回顧的な質問紙です。何十年も前の練習時間を思い出して答えてもらう形式には、思い出しの偏りがつきまといます。

それでも、概念の足場が完全でないことと、その実践がよいことは別の問題です。意欲と主体性を保ったまま運動量を確保するという設計判断は、言葉の妥当性がどうであれ、動機づけ研究の側から独立して支持されています。

現場での確認事項

ある活動が意図的な遊びとして成立しているかを、その場で確かめるための項目です。

  • 子どもが自分から「もう一回」と言ったか。言わせるために促していないか
  • 回数や時間を指示しなくても、運動量が積み上がっているか
  • 子どもたちがルールを自分たちで調整し始めたか(人数や場所に合わせて変えるのは、遊びが生きている証拠です)
  • できない子が抜けていく構造になっていないか
  • 技術的な狙いが表に出すぎて、勝ち負けや面白さより「正しい動き」の指摘が多くなっていないか
  • 終わったあとに、指導者ではなく子どもが内容を話題にしているか

典拠

  • Côté, J., Baker, J., & Abernethy, B. (2003). From Play to Practice: A Developmental Framework for the Acquisition of Expertise in Team Sports.
  • Côté, J. (2007). Opportunities and pathways for beginners to elite. Australian Sports Commission.
  • Côté, J., Baker, J., & Abernethy, B. Practice and Play in the Development of Sport Expertise. Handbook of Sport Psychology.
  • Güllich, A. (2017). International medallists and non-medallists developmental sport activities: a matched-pairs analysis. Journal of Sports Sciences, 35(23), 2281–2288.
  • Ramsay, G., Mosher, A., & Baker, J. (2023). Is There Just One Type of Multisport Pathway? Sports Medicine – Open, 9:96.
  • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000) / Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2008). Self-Determination Theory.
  • LaPrade, R. F. et al. (2016). AOSSM Early Sport Specialization Consensus Statement.

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