競技者育成指針作成の話(1)

競技者育成指針ってそもそも何ですか?

いっぴー
いっぴー

とっても簡単にいうと,「競技者の育成の方向性」を示したもののことをいうよ.
国や団体が策定するんだけど,その理由はそれぞれの国や団体が抱える問題によって違うんだ.
それを理解するためにも,まずは,アスリート・パスウェイについて説明するよ.

アスリート・パスウェイって?

いっぴー
いっぴー

競技者が,いつ, どこで, どのようにして,そのスポーツに出会ったのか.
誰に,どこで,どのように育成されたのか.
いつ,どのような大会を経験するのか
といった競技者として育っていく道すじを
アスリート ・ パスウェイ (Athlete pathway) というんだよ.
現在は,大きく2つに分けて考えられていて
「伝統的なパスウェイ」と「革新的なパスウェイ」があるよ.

伝統的なパスウェイ?革新的なパスウェイ?

いっぴー
いっぴー

伝統的なパスウェイは,一般的なものを言うんだけど,例えば幼少期に近所のスポーツ少年団や道場で,サッカーや柔道に出会い,本人の才能もあって,そこに良い指導者がいて一流競技者となるケースのことをいうよ.つまり,子どもたちが「偶然に」適性のあるスポーツと出会い,「偶然に」良い指導者と巡り合ったときに成功への道すじが開けるんだ.
一方で,革新的なパスウェイは,スポーツ適性を前提に,科学的手法で才能(タレント)を識別し,組織的かつ計画的な育成期間を経て,国際レベルの大会につなげるようなものをいうんだ.
ここまででわかると思うけど,この「偶然に」が重なる伝統的なパスウェイに限界を感じた国が,この革新的なパスウェイで競技力を高めることを目指したんだ.なので,「スポーツの成功における偶発的要素の最小化」という視点を持って,各国でタレント発掘・育成プログラムが作成されたんだよ.

タレント発掘・育成プログラムって何?

いっぴー
いっぴー

タレント発掘・育成プログラム(Talent Identification and Development = TID)は,
メダル獲得の可能性を有する選手(Talent)を,より多くの候補者の中からコーチの目と科学的な手法を用いて識別(Identification)し,系統立てられた育成プログラムの中で組織的かつ計画的に育成 (Development)することだよ.
ここで,「識別」が重要で,「選抜 (Selection)」と明確に区別できるから説明するよ.

識別(Identification)と選抜 (Selection)の違いって?

いっぴー
いっぴー

識別は「あるスポーツで成功する素質のある者を識別するために,競技経験の有無を間わず、いくつかのテストにより飾(ふる)いにかけること」と定義されて,
選抜は「特定のスポーツで成功すると考えられる競技者を識別するために,コーチの経験やテストにより,現在あるスポーツに参加している競技者をスクリーニングすること」と定義されているよ.
では,なぜTIDでは「選抜」ではなく,「識別」を用いているのかが気になるよね.それは,「選抜」が特定のスポーツに対してのタレントを見つけるために,そのスポーツに参加している競技者の中からスクリーニングをするんだけど,「識別」はその特定の競技者層以外の人材群も対象になるから,優れた素質を有する競技者をみつけ出す可能性が高まるという有用性があるからなんだ.

TID(タレント発掘・育成プログラム)を経て育成されたアスリートの成功事例はあるの?

いっぴー
いっぴー

TIDでは,短期間でトップレベルの競技者へと成長するケースが多いんだけど,2つの特徴があるんだ.一つは,「女子種目」に多いということ.もう一つは,「クローズドスキルの種目」に多いよ.これは,競技者の競技への能力適性の見極めがしやすい「クローズドスキル・スポーツ」をターゲットにして取り組んでいることが理由なんだ.
クローズドスキルというのは,「比較的安定し予測しやすい状況下で発揮され,環境に影響を受けない技術.その技術発揮には状況判断や戦況判断を含まず,開始と終了がはっきりとしている(Knapp, 1963)」ものをいうよ.
そして,戦略的に資源を用いる「選択と集中(ターゲット化)」のもと,クローズドスキル・スポーツの「女子種目」がTIDの効果が大きいマーケットと考えられている.
話が少しズレてしまったので,戻ろう.

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